

「お金がない、お金がない」
実家に帰るたび、おかんが同じことをつぶやく。
でも、いくら足りないのか聞いても、本人もはっきり答えられない。かといって、自分が毎月まとまった額を仕送りできるほど、こっちの家計に余裕があるわけでもない。仕事も子育ても抱えている。
「なんとか安心させたい。でも、何をしたらええんやろう」
——もしあなたが今そう感じているなら、この記事はきっと役に立ちます。
先に、いちばん大事なことをお伝えします。
実は、おかんを安心させるのに、最初からお金を増やす必要はありません。
「え、お金がないのが問題なんちゃうの?」と思いますよね。その感覚、とても自然です。でも、ここに多くの人が見落としている落とし穴があります。その正体を、これから一緒に見ていきましょう。
Q. お金がないと不安がる親を安心させるには、まず何をすればいい? A. まず「毎月の生活費」「これから入るお金」「突然の出費」の3つに不安を分けます。漠然とした不安を具体化するだけで、必要な対策がはっきり見えてきます。
まず、意外な事実から。
おかんが言う「お金がない」は、必ずしも「今日食べるお金がない」という意味ではないことが、とても多いのです。
その一言の中には、実はいろんな不安がごちゃ混ぜに詰め込まれています。
これ、全部バラバラの心配ごとですよね。時間軸も、金額も、対処法もまったく違う。
でも、おかんの頭の中ではこれが全部「お金がない」という一言にまとめられています。だから、いくら貯金があっても不安が消えないし、少し節約しても安心できない。
ここで、ひとつ気づいてほしいことがあります。
おかんが怖いのは、「お金が少ないこと」そのものより、「これから何が起きるか分からないこと」なんです。
これ、意外じゃないですか?
人は、金額が分からない・時期が分からない・対処法が分からない——つまり「先が見えない」ときに、いちばん不安が大きくなります。
逆に言えば、金額と時期と対処法が「分かっている」だけで、同じお金でも不安はぐっと小さくなる。
だから、おかんを安心させるために最初に増やすべきなのは、**お金ではなく「分かっていること」**なのです。
では、ごちゃ混ぜになった「お金がない」を、3つに分けてみましょう。
この3つは、性質がまったく違います。混ぜて考えるから「全部足りない」「何をしても不安」になる。分ければ、それぞれに違う対処法があることが見えてきます。
まず、いちばん身近な不安です。
確認するのは、たった3つの数字だけ。
ここで大事なのは、完璧な家計簿を作らせないことです。
高齢の親に「毎日レシートをつけて」なんて言うと、それ自体が大きなストレスになります。管理されているようで、いい気もしません。目的は家計簿づくりではなく、「毎月ざっくりいくら必要か」を知ることだけ。
ちなみに参考までに、2024年の総務省の家計調査では、65歳以上のひとり暮らしで働いていない世帯の実収入は、月およそ13万4千円というデータがあります。もちろん、住む地域や持ち家かどうかで大きく変わりますから、あくまで「世の中の平均はこのくらい」という目安として見てください。
大切なのは、おかん自身の数字です。
「最低限これだけあれば暮らせる」が分かると、不安はこう変わります。
「お金がない(漠然)」→「毎月あと1万円あれば暮らせる(具体的)」
漠然とした恐怖が、解ける問題に変わる。これだけで、ずいぶん気持ちが軽くなります。
次は、これから入ってくるお金の整理です。年金や、受け取れる可能性のある給付です。
ここで、多くの家庭が見落としているものがあります。
たとえば、年金生活者支援給付金という制度があります。これは、公的年金などの収入が一定の基準以下の年金受給者に、年金に上乗せして支給されるものです。2019年から始まった、比較的新しい制度です。
ただし、ここは大事なところなので、はっきり書いておきます。
これは「誰でももらえる」ものではありません。
老齢年金生活者支援給付金の場合、おおまかに言うと、次の条件をすべて満たす必要があります。
条件にあてはまる場合は、日本年金機構から請求書(はがき)が届き、必要事項を書いて返送する仕組みになっています。ここで意外なのが、申請しないと1円も受け取れないという点です。届いたはがきを「よく分からないから」と放っておいて、もらえるはずのものをもらっていない、というケースが実際にあります。
だからこそ、おかんの家に届いた郵便物を一緒に確認するだけでも、意味があるんです。
このほかにも、自治体独自の支援や、医療費・介護費の自己負担を軽くする制度が使える場合があります。ただし、どれも対象となる条件があります。
正確なことは、思い込みで判断せず、日本年金機構や、お住まいの市区町村の窓口で確認するのがいちばん確実です。
最後は、病気・入院・介護・家電の故障など、「もしも」への不安です。
ここでも、意外なことをお伝えします。
全部のリスクに備える必要はありません。
「え、備えなくていいの?」と思いますよね。でも、考えてみてください。起こるか分からない出来事を、全部お金に換算して備えようとすると、不安は際限なく大きくなります。ガンになったら、脳梗塞になったら、施設に入ったら、家が壊れたら……全部足したら、どれだけ貯金があっても足りません。
だから、こう順番に整理します。
こうやって「起こりそうなこと」と「使える制度」をセットで見ると、備えるべき範囲がぐっと現実的になります。すべてを貯金でまかなう必要はなかったんです。
さて、ここでもうひとつ、大きな気づきをお伝えします。
「親のお金が足りないなら、自分がお金を渡すしかない」
多くの人が、そう思い込んでいます。でも、まず最初にやるべきなのは、お金を渡すことではありません。
一緒に数字を見ることです。
考えてみてください。①②③のどれも、まずは「今どうなっているか」を知らないと、対策の立てようがありません。仕送りは、数字を見て「本当に足りない」と分かってから考えても遅くない。むしろ、数字を見た結果、「思ったより足りていた」「使える制度があった」というケースも少なくないのです。
やることは、たった3つの質問です。
このとき、「家計簿見せて」と迫るのはやめましょう。管理される感じがして、親も身構えます。
そうではなく、
「一回だけ、一緒に整理してみよか」
くらいの、軽い声かけで十分です。説教ではなく、隣に座って一緒に紙を見る。それだけで、おかんは「一人で抱えなくていいんや」と感じられます。
ここまで来たら、紙1枚でできる整理をしてみましょう。難しい家計簿はいりません。見るのは、この3つの数字だけです。
たとえば——これはあくまで仮の例ですが——
最低生活費が月12万円、年金などの収入が月11万円だとします。
このとき、おかんの頭の中は「お金がない、どうしよう」でいっぱいです。
でも、数字にするとこうなります。
「毎月1万円の差額を、どうするか」
どうですか。「お金がない」という底なしの恐怖が、「毎月1万円の問題」という、手のつけられる課題に変わりました。
1万円なら、①の給付金制度で埋まるかもしれない。固定費の見直しで縮まるかもしれない。あなたが少し補うのでもいい。いずれにせよ、やることが見えるんです。
これが、不安を分けることの力です。
(※金額はすべて仮の例です。実際の数字は、おかん自身のものを確認してくださいね。)
最後に、この記事でいちばん伝えたいことを書きます。
私たちはつい、こう考えます。
安心 = 十分な貯金額
でも、本当にそうでしょうか。
どれだけ貯金があっても「この先どうなるか分からない」人は不安なままです。逆に、貯金がそれほど多くなくても、「何かあったら、まずここに相談すればいい」と分かっている人は、驚くほど落ち着いています。
つまり、安心をつくるもうひとつの正体は、これです。
「何が起きても、次に何を確認し、誰に相談すればいいか分かっている」
だから、お金と一緒に「相談先」も知っておくと、安心はぐっと大きくなります。たとえば——
これらは、いざというときの「駆け込み先」です。場所と名前を知っておくだけで、「何かあってもなんとかなる」という感覚が生まれます。
長くなりましたが、この記事でお伝えしたかったのは、ひとつだけです。
おかんを安心させるために必要なのは、たくさんのお金より、まず一緒に「分からない」を減らすことです。
「お金がない」という漠然とした不安は、
この3つに分ければ、それぞれに違う対処法があることが見えてきます。全部をあなたが背負う必要はありません。一緒に数字を見て、使える制度を確認して、相談先を知っておく。それだけで、不安はずいぶん小さくなります。
だから今日、実家に帰ったら、こう聞いてみてください。
「貯金いくらある?」ではなく——
「一番、何が心配なん?」
その一言から、親子で一緒に「分からない」を減らしていく時間が始まります。安心させるって、お金を全部出すことじゃなかった。隣に座って、一緒に不安の正体を見ることだったんです。
Q1. お金がないと不安がる親に、何と言えばいい?
まず「一番何が心配なん?」と聞くのがおすすめです。「大丈夫」と慰めるより、不安の正体を一緒に言葉にするほうが安心につながります。漠然とした不安は、口に出して具体的にするだけで小さくなるからです。
Q2. 親に貯金額を聞いてもいい?
聞いても構いませんが、いきなり金額を問い詰めるより「一回だけ一緒に整理してみよか」と誘うほうがスムーズです。金額そのものより、「毎月いくらあれば暮らせるか」を一緒に把握することが目的だと考えると、親も身構えにくくなります。
Q3. 年金だけで生活できない場合はどうすればいい?
まず「毎月いくら足りないのか」を具体的な数字にすることが先決です。差額がはっきりすれば、給付制度・固定費の見直し・家族の補助など、打つ手が見えてきます。あわせて、年金生活者支援給付金など、条件を満たせば受け取れる制度がないか、年金事務所や市区町村の窓口で確認してみましょう。
Q4. 親への仕送りはいくら必要?
金額を決める前に、まず親の収入と最低生活費の差額を確認してください。仕送りは「差額がはっきりして、本当に必要だと分かってから」考えても遅くありません。数字を見た結果、使える制度が見つかって仕送りが不要になるケースもあります。あなた自身の生活を守れる範囲で考えることが大前提です。
Q5. 親のお金の相談はどこにすればいい?
内容によって窓口が分かれます。年金は年金事務所・日本年金機構、暮らし全般は市区町村の相談窓口、介護や高齢者の生活は地域包括支援センターが入り口になります。まず「どこに相談すればいいか」を知っておくだけでも、不安はかなり軽くなります。
Q6. 高齢の親が家計をまったく把握していない場合は?
完璧に把握してもらう必要はありません。「毎月いくら入って、最低いくらあれば暮らせるか」の2つだけ、一緒にざっくり確認すれば十分です。細かい家計簿を強要すると、かえってストレスになり長続きしません。
Q7. 老後のお金の不安は、そもそもどう減らせる?
不安を「毎月の生活」「これからの収入」「突然の出費」の3つに分けるのが第一歩です。混ぜて考えると際限なく大きくなる不安も、分ければそれぞれに対処法があると分かります。お金を増やすより先に、「分かっていること」を増やすのが、いちばん効く安心のつくり方です。
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