

「老後が心配だから、もう少し貯めてから旅行に行こう」
「退職して時間ができたら、夫婦でゆっくり出かけよう」
「落ち着いたら、ずっとやりたかった趣味を始めよう」
——こうした言葉を、あなたも一度は口にしたことがあるのではないでしょうか。
決して間違った考えではありません。将来に備えるのは大切なことです。
でも、ひとつだけ、静かに立ち止まって考えてほしいことがあります。
その「いつか」に、今と同じ体力・健康・家族との時間は、本当に残っているでしょうか。
この記事でお伝えしたいのは、「もっと使いましょう」でも「もっと貯めましょう」でもありません。お金には金額のほかに、もうひとつ見落としがちな「価値」があるという話です。そして、その視点を持つだけで、あなたのお金の使い方は、きっと少し変わります。
お金を使うのが怖いのは、あなたが慎重だからではなく、「使った後の後悔」ばかりが見えて、「使わなかった後悔」が見えにくいからです。
50代、60代になると、多くの人が「守り」の意識に切り替わります。子どもの独立、住宅ローンの完済、そして退職後の生活。人生の後半戦を意識すればするほど、「減らしたくない」という気持ちが強くなるのは自然なことです。
実際、日本人の平均寿命は延び続けています。2024年の簡易生命表によれば、男性の平均寿命は81.09年、女性は87.13年。65歳まで生きた人は、男性でさらに約19年、女性で約24年の余命があるとされています。「人生100年時代」と言われるなか、老後の期間が長くなれば、備えたい気持ちが増すのも当然でしょう。
さらに、物価も上がっています。2024年の二人以上世帯の消費支出は、1か月あたり平均約30万円。物価変動を除いた実質では前年より減少しており、「同じ生活を維持するのにお金がかかるようになった」という実感を、多くの人が持っています。
こうした状況で「貯めておこう」と考えるのは、まったく理にかなっています。
問題は、その慎重さが、いつの間にか「使えない」に変わってしまうことです。
「いくらあれば安心か」という問いには、実は終わりがありません。1,000万円貯めれば1,500万円が欲しくなり、2,000万円あっても「まだ足りない気がする」。不安は、金額では埋まらないのです。
そして気づいたときには、貯金は増えたけれど、旅行にも行かず、趣味も始めず、ただ通帳の数字を眺めている——そんな後半生になりかねません。
節約とは、お金を使わないことではありません。本当に大切なものに使えるよう、優先順位をつけることです。
ここで、この記事の中心となる、少し意外な考え方をお伝えします。
銀行口座の中の100万円は、50歳でも70歳でも100万円です。金額は変わりません。しかし、その100万円で「できること」は、年齢とともに確実に変わっていきます。
考えてみてください。
つまり、お金には「金額」という価値と、「使える時間」という、もうひとつの価値があるのです。
これを式にするなら、こうなります。
お金の本当の価値 = 金額 × 健康 × 時間
金額だけを見ていると、この掛け算の後ろ半分を見落とします。そして厄介なことに、「健康」と「時間」は、貯金と違って放っておくと目減りしていくのです。
ここで、少し立ち止まって考えてみてください。
今、あなたが「お金のために」我慢していることは、10年後でも同じように楽しめることでしょうか。
答えを急ぐ必要はありません。ただ、一度考えてみる価値のある問いです。
私たちは普段、「お金の後悔」というと、こんなことを思い浮かべます。
これらは確かに後悔です。「使った後悔」ですね。
でも、もうひとつの後悔があります。それは、**「使わなかった後悔」**です。
この「使わなかった後悔」の恐ろしいところは、後悔していることにすら、なかなか気づけないという点です。無駄遣いは通帳に残るのでわかりやすいですが、「行かなかった旅行」はどこにも記録されません。だから、多くの人が気づかないまま、機会を失っていきます。
使わないことにも、機会損失という、目に見えない支出があるのです。
高齢になってから「もっと貯めておけばよかった」と後悔する人と、「もっとやっておけばよかった」と後悔する人。あなたが80歳になったとき、強く感じるのは、どちらでしょうか。
多くの人生の先輩たちが語るのは、実は後者だと言われています。使いすぎた後悔よりも、やらなかった後悔のほうが、長く胸に残るのです。
もうひとつ、見方を変えてみましょう。
お金を使って、こんなことができます。
これらは、一見すると「ただの消費」に見えます。でも、見方を変えれば、残りの人生の時間を買う行為なのです。
たとえば、食洗機を10万円で買ったとします。毎日30分の皿洗いから解放されるなら、1年で約180時間。その時間を、家族との会話や、好きなことに使えます。10万円は「消えたお金」ではなく、「取り戻した時間」への投資だったわけです。
だからこそ、支出を「価格」だけで判断するのは、もったいない。
「安い=得」とは限りません。
3,000円で買った服を一度も着なければ、1回あたりのコストは3,000円です。一方、3万円のコートを10年間、毎冬着続ければ、1シーズンあたり3,000円。1回あたりに換算すれば、はるかに安い。
さらに言えば、「高かったけれど、一生忘れられない経験」は、金額では測れません。子どもと登った山、夫婦で見た海外の夕日、親と交わした最後の旅の会話——これらは、人生全体で見れば、驚くほど「安い買い物」だったと感じるかもしれないのです。
価格ではなく、**「人生の1時間あたり、どれだけの価値があるか」**で考える。この視点を持つだけで、お金の使い方の質は、大きく変わります。
では、具体的に何にお金を使えば、後悔が少なくなるのでしょうか。ここからは、「後悔しない支出5原則」として、5つの方向をご紹介します。
健康への支出は、モノを増やすためではなく、「将来できることを減らさない」ための支出です。
運動、人間ドック、歯の治療、質のよい睡眠、バランスの取れた食事。これらは地味で、すぐに効果が見えにくいものです。でも、健康は「動ける期間」を延ばす、最も確実な投資と言えます。
ここで、少し衝撃的なデータをお伝えします。日本人の平均寿命は男性81年・女性87年ですが、「健康寿命」——つまり、介護などを必要とせず、自立して生活できる期間は、2022年時点で男性が約72.6年、女性が約75.5年です。
その差、男性で約8年、女性で約11年。
これは何を意味するか。人生の最後の8年から11年は、多くの人にとって、日常生活に何らかの制限がある期間になり得る、ということです。
言い換えれば、あなたが「自由に動ける時間」は、平均寿命よりもずっと短いかもしれない。だからこそ、その動ける時間を1年でも延ばす健康への投資は、何よりも価値があるのです。
時短家電やサービスへの支出は、「節約できた金額」ではなく、「取り戻せた時間」で価値を測りましょう。
食洗機、ロボット掃除機、乾燥機付き洗濯機。あるいは、家事代行、宅配サービス、少し高いけれど早く着く新幹線。
これらを「贅沢」と感じる方もいるでしょう。でも、50代・60代にとって、時間は若い頃よりもずっと貴重です。残された「自由に動ける時間」が限られているなら、その時間を面倒な作業に使うのは、本当にもったいない。
お金で時間を買い、その時間を大切な人や好きなことに回す。これは立派な「投資」です。
経験への支出は、消えてなくなる浪費ではなく、記憶・人間関係・自信として人生に残る投資になり得ます。
旅行、趣味、学び、新しい挑戦。モノは古くなり、飽きて、いつか手放します。でも、経験は違います。あの旅で見た景色、初めて何かができた喜び、そこで出会った人——これらは、色あせながらも、一生あなたの中に残ります。
そして経験は、年齢とともに「できること」が変わっていく、最も「旬」のあるお金の使い道でもあります。今しかできない経験に、使いどきを逃さず使う。それが後悔を減らします。
お金は後からでも稼げます。しかし、同じ年齢の家族と過ごす時間は、二度と買い戻せません。
これは、5原則の中でも、特に心に留めておいてほしいことです。
子どもが10歳のときに一緒に過ごせる時間は、その1年しかありません。親が元気に旅行できる時期にも、必ず終わりがあります。配偶者と二人で自由に動ける時間も、永遠には続きません。
家族との食事、親を連れての旅行、友人との集まり。これらにかかるお金を「もったいない」と削ってしまうと、後で最も強い後悔として返ってくることが多いのです。
10年前の自分に戻れるとしたら、あなたは何にお金を使いたいですか。
その答えの多くは、モノではなく、「誰かと過ごした時間」ではないでしょうか。だとすれば、その答えは、これからの10年にも当てはまります。
今を楽しむだけでは、後悔しない人生にはなりません。未来の自分にも、お金を「渡して」おく必要があります。
ここまで「使うこと」の大切さをお伝えしてきましたが、決して「貯金をやめて使い切りましょう」という話ではありません。それでは本末転倒です。
生活防衛資金、医療・介護への備え、そして資産形成。これらは、未来の自分が安心して暮らすための、いわば「未来の自分への仕送り」です。
日本でも、将来に備える人は着実に増えています。2024年に拡充された新しいNISA制度の口座数は、2025年6月末時点で約2,696万口座に達しました。多くの人が、少しずつでも未来のためにお金を働かせ始めているのです。
大切なのは、バランスです。**未来の安心を確保したうえで、今しかできないことにも使う。**この両立こそが、5原則の締めくくりです。
「使うべきか、貯めるべきか」で迷ったとき、次の3つの質問を自分に投げかけてみてください。判断の助けになります。
質問1:これは、10年後でもできることか。
10年後でもできることなら、急ぐ必要はないかもしれません。でも、体力や家族の状況を考えて「今しかできない」なら、それは優先すべき支出です。
質問2:この支出は、人生に何を残すか。
モノとして残るのか、記憶として残るのか、健康として残るのか。「何も残らない」なら、少し立ち止まって考えてもいいでしょう。
質問3:これは、未来の安心を壊さない範囲か。
どんなに価値のある経験でも、生活防衛資金や必要な備えを削ってまで使うのは危険です。安心の土台を守った上での支出かを、確認しましょう。
この3つを通せば、「使いすぎ」も「使わなさすぎ」も防げます。
最後に、具体的な仕組みをご提案します。それが、**「今しかできないこと予算」**を作ることです。
多くの人は、家計を「生活費」と「貯金・老後資金」の2つに分けています。でも、この分け方だと、「今を楽しむお金」の居場所がありません。だから、いつまでも後回しになるのです。
そこで、この2つに加えて、3つ目の枠を作ります。
金額は、一律に「いくら」とは決められません。家計の状況、年金の見込み、資産、家族構成によって、適正な額は人それぞれ違うからです。まずは、無理のない範囲で、年間の予算を決めてみてください。たとえば「年に一度は、今しかできないことに使う」と決めるだけでも、人生は変わります。
ここで思い出してほしいのが、架空の例ですが、55歳の会社員Aさんの話です。
Aさんには、ある程度の貯金があります。でも老後が不安で、毎年「来年こそ夫婦で旅行を」と思いながら、先送りを続けてきました。「65歳になって退職すれば、時間ができる。そのときゆっくり行けばいい」と。
でも、この考えには、大きな見落としがあります。65歳になったとき、今と同じ健康状態でいられるとは限らないのです。時間ができても、体力が追いつかないかもしれない。夫婦のどちらかが、体調を崩しているかもしれない。
かといって、老後資金を考えずに毎年高額な旅行を続けるのも、それはそれでリスクがあります。
そこでAさんに必要なのは、「全部使う」でも「全部我慢する」でもない、第三の道です。**毎年、決まった額を「今しかできないこと予算」として確保し、その範囲で、今を楽しむ。**未来の安心を守りながら、今の自分も生かす。この仕組みさえあれば、Aさんは罪悪感なく旅行に行けますし、老後の備えも崩れません。
Q1. 50代は、いくら貯金していればお金を使ってもいいですか。
一律の金額はありません。判断の基準になるのは、貯金額そのものより、「生活費・老後資金・生活防衛資金といった必要な備えが確保できているか」です。それらの土台がある上でなら、今しかできないことに使う予算を持つことは、むしろ健全な資産管理と言えます。金額ではなく、備えとのバランスで考えましょう。
Q2. 老後資金が心配で、お金を使えません。どう考えればいいですか。
まず、「いくらあれば安心か」という不安は、金額をいくら増やしても消えにくいものだと知ってください。大切なのは、必要な備え(生活費・医療介護費・生活防衛資金)を先に確保し、それとは別枠で「今使ってよいお金」を明確にすることです。使ってよい枠を決めれば、その範囲での支出に罪悪感を持つ必要はなくなります。
Q3. 後悔しないお金の使い道は、何ですか。
年齢とともに価値が変わるもの——健康、時間、経験、大切な人との時間——への支出が、後悔の少ない使い道とされています。逆に、「10年後でもできること」は、必ずしも今急ぐ必要はありません。「今しかできないか」を基準にすると、優先順位が見えてきます。
Q4. 60代から旅行にお金を使っても、大丈夫でしょうか。
必要な備えが確保できているなら、むしろ積極的に検討したい支出です。健康寿命を考えると、自由に動ける時間には限りがあります。「もっと歳をとってから」と先送りするほど、旅行の中身は体力に左右されます。行きたい場所があるなら、動ける今こそが「使いどき」かもしれません。
Q5. 貯金と経験、どちらを優先すべきですか。
どちらか一方ではなく、両立が答えです。ただし、貯金は「後からでも取り戻せる」のに対し、ある年齢でしかできない経験は「取り戻せない」という違いがあります。必要な備えを確保した上で、余力の中から「今しかできない経験」に配分する。この順番が、後悔を減らします。
Q6. 老後に残すお金は、いくら必要ですか。
これも一律には決められません。年金の受給額、持ち家か賃貸か、健康状態、家族構成によって、必要額は大きく変わります。世間で言われる「◯◯万円」という数字を鵜呑みにせず、自分の年金見込みと生活費から逆算して考えることが大切です。不安なら、公的機関の年金試算や、専門家への相談も検討しましょう。
Q7. お金を使いすぎないか、心配です。
その心配がある方こそ、「今しかできないこと予算」を先に決める方法が向いています。使ってよい上限を決めておけば、その範囲内での支出は「計画的なもの」になり、使いすぎを防げます。無制限に使うのではなく、枠を決めて使う。これが、安心して今を楽しむコツです。
最後に、少しだけ、大きな問いを投げかけさせてください。
人生の最後に、通帳の残高が最も多かった人。その人は、本当に「お金の使い方に成功した人」なのでしょうか。
もちろん、使い切ることが正解だと言いたいわけではありません。お金を使い切って、未来の自分が困るようでは、それはそれで失敗です。
でも、こうも言えるのではないでしょうか。
人生で大切なのは、「いくら使ったか」でも「いくら残したか」でもなく、「その支出によって、人生に何が残ったか」なのだ、と。
お金そのものに、使用期限はありません。100万円は、いつまでたっても100万円です。
けれど、お金を使ってできることには、人生上の「期限」があります。旅行に行ける体力、家族と過ごせる時間、新しいことに挑戦する気力——これらは、静かに、しかし確実に、目減りしていきます。
老後の準備とは、老後のために「今」をなくすことではありません。
未来の自分を守るお金と、今の自分を生かすお金。その両方を持つこと。これこそが、後悔しないお金の使い方の、本当の姿だと思うのです。
読み終えたら、ぜひ実際に手を動かしてみてください。
まず今日、あなたが「いつかやろう」と思っていることを、3つ書き出してみましょう。
そして、その3つを、こう見つめ直してみてください。
「この中に、10年後では価値が下がってしまうものは、ないだろうか。」
もし、ひとつでもあるなら——それが、あなたが「使いどき」を逃してはいけない、大切なものなのかもしれません。
お金は、大切に貯めるものです。でも同時に、大切なものに、使いどきを逃さず、計画的に使うもの。その両方を、あなたの人生に取り戻してください。

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著者は、AIの活用で企業業務に従事してきており、その後、独立しプロンプトの技術であるプロンプトエンジニアを取得し、生成AIを活用したさまざまな日常業務の改善による生産性向上を提案しております。
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