

夜11時。子どもを寝かしつけたあと、リビングでスマホの家計簿アプリを開く。いちばん上に表示される「家賃」の数字を見て、今月もため息が出る。
共働きで、それなりに頑張って働いている。なのに、貯金のペースは一向に上がらない。子どもが大きくなったら、もう一部屋ほしい。でも、今の家賃でそれは無理だ——。
「在宅勤務がメインなのに、なんで高い家賃を払って都心に住んでいるんだろう」
そんな疑問が頭をよぎったことがあるなら、この記事はきっと役に立ちます。
この記事では、在宅勤務を続けたまま地方へ移住して、国の移住支援金を受け取りながら、毎月の貯金ペースを倍にする方法を紹介します。ただし、甘い話だけはしません。移住で失敗する人の落とし穴や、支援金の「返還」のルールまで、正直にお伝えします。
家計の中でいちばん大きな固定費は、ほとんどの家庭で住居費です。そして都心の家賃は、食費や光熱費のように「工夫して減らす」ことがほぼできません。
どれだけランチを節約しても、どれだけ電気をこまめに消しても、毎月の家賃が10万円単位で出ていく限り、貯金のペースには天井があります。都心に住むこと自体が、家計の上限を決めているのです。
ここで、少し立ち止まって考えてみてください。
都心の家賃が高い理由のひとつは、「職場に近いこと」に価値があるからです。でも、もしあなたが週の大半を在宅で働いているなら、ほとんど使っていない「職場への近さ」に、毎月高いお金を払っていることになります。
在宅勤務ができる人にとって、都心の家賃は「通勤しないのに払っている通勤料金」のようなもの。この気づきが、地方移住を考える出発点になります。
国には、東京圏から地方へ移住する人を後押しする「移住支援金」という制度があります。そして、今の会社でテレワークを続けながら移住する人も、この制度の対象になります。
支給額は次のとおりです。
区分 支給額(国の制度) 世帯(2人以上)で移住 最大100万円 単身で移住 最大60万円 18歳未満の子ども 1人につき最大100万円を加算
たとえば夫婦と子ども2人の4人家族なら、国の制度だけで最大300万円。自治体によっては、さらに独自の上乗せがある場合もあります。
ただし、誰でももらえるわけではありません。主な条件は次の3つです。
テレワークで移住する場合、多くの自治体では、会社がテレワークでの移住を認めていることを示す書類の提出が求められます。申請の期限も自治体によって異なり、移住後1〜3か月以内などと決まっていることが多いので注意しましょう。
ここが、この記事でいちばん伝えたいポイントです。
移住支援金には、申請から5年以内に移住先から転出すると、返還しなければならないというルールがあります。つまり、最大100万円(子ども加算があればそれ以上)は、受け取った瞬間にあなたのものになるわけではありません。5年間住み続けて、初めて本当に自分のお金になるのです。
そして、もうひとつ知っておいてほしいデータがあります。
都市部から地方へ移住した経験のある人への調査では、移住をやめた人の約7割が3年以内に離脱していました。やめた理由の上位は、「生活環境の変化」「買い物の不便さ」「交通手段の不便さ」です。
一方で、移住した人の77%は「満足している」と答えています。つまり、最初の3年を乗り越えられるかどうかが、移住の成否を大きく分けているのです。
「5年以内に出たら返還」と「やめる人の7割は3年以内」。この2つを並べると、支援金を目当てに移住先を選ぶのが、いちばん危ないことが分かります。
では、何がお金を増やしてくれるのでしょうか。
答えは、毎月の固定費が下がることです。支援金は一度きりですが、家賃の差は毎月、毎年、ずっと効き続けます。
支援金は「移住を決めた人へのボーナス」。貯金を倍にする本体は、固定費の構造そのものが変わることです。この順番を間違えないことが、移住で失敗しない最大のコツです。
では実際に、どれくらいお金が変わるのかを、共働きの子育て世帯をモデルに試算してみましょう。
モデルケース: 東京23区在住、夫婦と子ども1人の3人家族。夫婦とも週4日在宅、週1日出社。現在の貯金は月5万円。
項目 移住前(23区) 移住後(地方都市) 毎月の差 家賃(2LDK→3LDK) 17万円 10万円 +7万円 車の維持費 なし 2.5万円 −2.5万円 出社日の交通・外食など 1.5万円 0.5万円 +1万円 光熱費(家が広くなる分) 2万円 2.5万円 −0.5万円 毎月の貯金 5万円 10万円 +5万円
部屋が1つ増えたうえで、毎月の貯金は5万円から10万円へ、ちょうど倍。年間では60万円から120万円になります。
さらに、5年間住み続ければ、移住支援金(世帯100万円+子ども1人100万円=最大200万円)が正式に自分のものになります。
ポイントは、車の維持費をきちんと差し引いても、家賃の差が大きいためプラスになることです。逆に言えば、家賃があまり下がらない地域や、車が2台必要になる地域では、思ったほど貯金は増えないこともあります。移住先を選ぶ時は、家賃と車の両方をセットで比べましょう。
最初にやるべきことは、物件探しではありません。会社が、テレワークでの地方移住を正式に認めてくれるかの確認です。
出社回帰の流れがある今、「移住したあとに出社を求められた」となれば、計画はすべて崩れます。人事に相談し、移住後もテレワークを続けられることを、書面で確認しておきましょう。これは支援金の申請にも必要になることが多い書類です。
移住支援金の対象地域や金額、申請期限は自治体ごとに異なります。気になる移住先が見つかったら、その自治体の移住相談窓口に直接問い合わせるのが確実です。
移住をやめる人の7割が3年以内に離脱していることを考えると、いきなり引っ越すのはリスクがあります。
「旅行」ではなく「暮らし」として試すことで、3年後の自分が想像しやすくなります。
地方では、車が生活に欠かせない地域が多くあります。家賃の安さだけで判断せず、家賃+車の維持費+光熱費の合計で、今の暮らしと比べましょう。駅やスーパーの近くに住めば、車1台で済む地域も少なくありません。
最後に、移住で浮いたお金の行き先を決めておきます。
支援金を引っ越し費用や家具に使ってしまうと、万が一5年以内に転出することになった時、返還のお金が用意できません。**5年たつまでは「預かっているお金」**と考えるのが安全です。
東京都江東区に住んでいたEさん夫婦(ともに30代後半)は、IT企業とWeb制作会社に勤める共働き世帯。小学生の子どもが1人います。夫婦とも週4日在宅でしたが、2LDKの家賃は月17万円。「子ども部屋がほしい」と思いながらも、23区内でもう一部屋増やすのは現実的ではありませんでした。
Eさんがまずやったのは、夫婦それぞれの会社に、テレワークでの移住が可能かを確認することでした。2社とも書面で認めてくれたことで、具体的な検討をスタート。週末を使って、新幹線で1時間半ほどの地方都市に、2回「お試し移住」をしました。
決め手は、駅とスーパーに近い3LDKが月10万円で借りられたこと。車は1台で足りる立地を選びました。
「部屋が増えたのに、貯金は前の倍のペースで増えています。でも一番変わったのは、子どもが外で遊ぶ時間が増えたことかもしれません」
移住支援金は、5年後まで別の口座に入れたまま、手をつけていないそうです。
A. もらえる可能性があります。会社の命令ではなく自分の意思で移住し、移住先でテレワークで今の仕事を続ける場合は、移住支援金の対象になります。東京23区での在住・通勤の期間などの条件もあるため、移住先の自治体に確認しましょう。
A. 国の制度では、世帯で最大100万円、単身で最大60万円です。18歳未満の子どもと一緒に移住する場合は、子ども1人につき最大100万円が加算されます。自治体によって金額や独自の上乗せは異なります。
A. 申請から5年以内に移住先から転出した場合や、虚偽の申請をした場合などは、返還が必要になります。5年間は住み続ける前提で、移住先を慎重に選ぶことが大切です。
A. 移住をやめた人の約7割は3年以内に離脱しており、理由の上位は生活環境の変化や買い物・交通の不便さです。お試し移住で実際の暮らしを体験し、家賃だけでなく車の維持費も含めて固定費を比べてから決めることをおすすめします。
地方移住は、人生の大きな決断です。だからこそ、いきなり引っ越すのではなく、小さな確認から始めましょう。
この3つを確認するだけで、移住は「ぼんやりした憧れ」から「計算できる選択肢」に変わります。
満員電車にも、高い家賃にも縛られない暮らし。最大100万円の支援金は、その一歩を後押しするボーナスにすぎません。本当の宝物は、毎月ずっと続く「貯金が倍になるペース」と、家族と過ごす時間の豊かさです。
まずは今夜、家計簿アプリの「家賃」の数字を見ながら、こう問いかけてみてください。「この家賃、本当に今の自分たちに必要だろうか?」

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