

「今月もボーナスが増えた」「基本給も上がった」なのに、なぜか財布のひもはずっと固いまま——そんな感覚はありませんか?
実は2026年に入ってから、日本人の実質賃金(物価の影響を除いた本当の手取り感)は数カ月連続でプラスになっています。給料が増えているのは、統計上まぎれもない事実です。
ところが同じタイミングで、日本人の実質消費支出は半年ほど連続でマイナスを記録しています。給料は増えているのに、使うお金は減っている。普通に考えると、これはちょっとおかしな話です。
さらにもう一つ、まったく別の数字を重ねると、この矛盾の正体が見えてきます。それは、日本を訪れる外国人旅行者が使うお金が、過去最高を更新し続けているという事実です。
「給料は増えた」「日本人は財布のひもを締めている」「外国人はどんどんお金を使っている」——この3つの数字を並べたとき、実は日本の家計に起きている、ある”見えない値上げ”の正体が浮かび上がってきます。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2026年5月の実質賃金は前年同月比+1.4%となり、5カ月連続でプラスを記録しました。名目賃金(額面の給料)も前年比+3.2%増えており、基本給にあたる所定内給与も安定して上昇しています。
Q. 実質賃金はいくら増えた? 2026年5月時点で前年より1.4%増加。物価上昇分を差し引いても、給料は実質的に増えている状態です。
これだけを見ると、「良いニュースだ」「日本経済はようやく上向いてきた」と感じるのが自然です。実際、2022年から2025年にかけて長く続いた実質賃金マイナスの時期からすると、大きな転換点といえます。
ところが、総務省の家計調査を見ると、話が変わってきます。2026年5月の実質消費支出(二人以上の世帯)は前年同月比▲0.4%となり、6カ月連続の実質減少を記録しました。1世帯あたりの消費支出額は約32万345円です。
Q. 消費支出はなぜ減っている? 給料は増えているのに、実質ベースでの消費は6カ月連続で前年を下回っています。
給料が増えているなら、本来はもう少しお金を使ってもいいはずです。ここが最初の「ん?」となるポイントです。実質賃金がプラスなのに実質消費がマイナス——この2つの数字を並べただけでも、すでに小さな矛盾が生まれています。
そして3つ目の数字が、この記事最大の「あっ!」を作ります。観光庁の調査によると、2025年に日本を訪れた外国人旅行者が使ったお金(訪日外国人旅行消費額)は9兆4549億円に達し、過去最高を更新しました。前年比では+16.4%という大きな伸びです。2026年に入ってからも勢いは衰えておらず、1〜3月期の消費額は2兆3378億円で、四半期としての過去最高を更新しています。
Q. 外国人観光客はどのくらいお金を使っている? 2025年の1人あたり旅行支出は22万9千円。コロナ禍前の2019年と比べて約1.4倍に増えています。
日本人は財布のひもを締めているのに、外国人観光客はどんどんお金を使っている——同じ「日本の物価」を見ているはずなのに、まったく逆の行動が起きているのです。
ここまでの3つの数字を、「関係」として並べてみます。
実質賃金 +1.4%(給料は増えている) ↓ 実質消費支出 ▲0.4%(なのに日本人は使っていない) ↓ インバウンド消費 9兆4549億円・過去最高(外国人はどんどん使っている)
つまり何が起きているのか。一言でいえば、**「同じ日本の中で、日本人にとっての値段の感じ方と、外国人にとっての値段の感じ方が、正反対に動いている」**ということです。
この「感じ方のズレ」を、身近な金額に置き換えてみます。
外国人旅行者1人あたりの旅行支出は22万9千円(2025年)。これは、日本の2人以上世帯が1カ月に使う消費支出(約32万円)に迫る金額です。つまり外国人観光客は、日本での数日間の滞在で、日本の平均的な世帯が1カ月かけて使うのとほぼ同じ金額を使っている計算になります(概算)。
一方、総務省の消費者物価指数を見ると、コメ(うるち米)は2025年度に前年度比+48.5%、チョコレートは+34.1%、コーヒー豆は+54.0%という大幅な値上がりを記録しています(いずれも2025年度平均)。全体の物価上昇率が1〜2%台であるのに対し、日々の食卓に直結する品目はその何十倍ものペースで値上がりしているのです。
仮に月3万円ほど食費を使う家庭であれば、コメやコーヒー、菓子類だけの値上がり分で、月あたり数千円規模の負担増になっている可能性があります(品目構成によって変わるためあくまで概算です)。実質賃金が+1.4%増えたとしても、体感として「増えた実感がない」のは、増えた分がそのまま生活必需品の値上がりに吸収されているからかもしれません。
考えられる背景を整理すると、次のようになります。
これらはあくまで考えられる要因であり、実質賃金の増加と消費の減少、インバウンド消費の増加を直接結びつける因果関係が統計的に証明されているわけではない点には注意が必要です。
この3つの数字が教えてくれるのは、「給料が増えた」というニュースだけを見て安心してはいけない、ということです。
冒頭の疑問に戻りましょう。「給料は増えているのに、なぜ財布は重くならないのか」——その答えは、実質賃金という”平均の数字”だけを見ていたことにありました。
同じ円安という現象が、外国人観光客にとっては「日本が安く感じる追い風」になり、日本人にとっては「輸入食品が高くなる向かい風」になっている。これが、実質賃金のプラスとインバウンド消費の過去最高、そして日本人の消費マイナスという、一見バラバラな3つの数字をつなぐ糸でした。
ニュースを見るときは、「賃金」だけを見るのではなく、「消費」と「物価の中身」も一緒に見ると、家計の本当の姿が見えてきます。次にニュースで「賃金アップ」の見出しを見たときは、「では何が値上がりしているのか」も、あわせてチェックしてみてください。
Q1. 実質賃金が増えているのに生活が苦しく感じるのはなぜですか? 実質賃金の増加はボーナスなど特別給与に支えられている部分があり、コメや菓子など生活必需品の値上がりペースが平均の物価上昇率を大きく上回っているためです。
Q2. なぜ外国人観光客の消費だけが増え続けているのですか? 円安によって外国人から見た日本の物価が割安になっていることが背景の一つと考えられますが、旅行者数そのものの増加も消費額を押し上げています。
Q3. 訪日外国人1人あたりの旅行支出はどのくらいですか? 2025年時点で1人あたり約22万9千円で、コロナ禍前の2019年と比べて約1.4倍の水準です。
Q4. 家計を守るために今すぐできることはありますか? 値上がり幅の大きい食品の購入方法を見直すことや、副業・資産形成による収入の複線化が、実質的な家計防衛につながります。
Q5. 今後、実質賃金の上昇は続きますか? 物価の伸びが落ち着けば実質賃金のプラス基調は続く可能性がありますが、原油価格や為替の動向次第では再びマイナスに転じるリスクも指摘されています。

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